変化する王子の話
 1.引き篭もり王子?

 午後のお茶の時間。
 ユリエルは1人、天気のいい庭でお茶をしていた。
 側にはレーニアもいて、一見いつも通り。
 しかし、全くいつも通りではなかった。

 ユリエルの表情は怒りに満ちていた。
 
「……、レーニア、ここに帰ってきてから何日経ったかしら」
 ユリエルは真っ青な空を見上げてそう言った。
 いつしかも聞かれたことのあるような質問だなぁと思いつつ、レーニアは答える。
「そうですね、丁度一週間ぐらい経ったような気がします」
 レーニアは指折り数えながら頷いた。
 
「……、そうよね、1週間よね。帰る途中の温泉ではあんなことまで言ってたくせに、帰ってきたら……」

『しばらくご飯は1人で食べて』
『え?』

『今僕忙しいから、また後で』
 パタン。

「……、一体何考えてるのよ、あの王子はぁあああ!!!」
 久々のユリエル大爆発。
 レーニアはあははと乾いた笑いを返しながらも、少しばかり心配していた。

「あれだけ、盛大に人に好きって言っておきながら……」
 それを自分で口にするとユリエルはボッと1人赤くなる。しかし、すぐに怒りにかき消されてしまう。
「帰ってきてからろくに会話してない気がするわ」
 レーニアもそれには頷いた。

 どういうわけか、戻ってきてから、ラティスはユリエルを避けているようだった。いつも一緒にとっていた食事も今は一緒にとっていない。しかも、ユリエルがお茶に誘ってもちょっと扉から顔を出しただけで断り扉を閉める。ひどい時は、カイが代わりに返事をするぐらいだ。
 
 ラティスがユリエルのことを好きになっていたのは、明らかだっただけに、この状態はおかしく見えた。
 声を上げて怒っているユリエルではあるが、一瞬不安げな色も見せる。口には出さないがラティスのことを気にしている。突然眠ってしまったり、うなされたりしているのを見ているため、どこか体が悪いのだろうかとも思ってしまう。
 
 ただ、今のユリエルはここに来たばかりの頃のユリエルとは違う。
 1週間も一応待ってあげたのだ。これ以上待てなければ、行動にでるのみである。
「……、レーニア」
「はい、何でしょうか?」
 首を傾げたレーニアに、ユリエルが満面の笑みでこう言った。
「カイをつれてきてくれない?今すぐ。ここに」
 ユリエルさまもずいぶんお強くなられたなぁと思っている場合ではない、レーニアは微笑の力に押されるように慌ててカイを探しに向かった。

 *** ***

 その頃、ラティスは自室を1週間ぶりに出ていた。
 出たくなかったのだが、出させられたというのが正確なのだが。
 ここは、王室。ラティスの父であり、ギルバの王である、ケーリアン=ギルバの部屋である。ラティスの父は、彼とは違い金色の髪をしていた。今は歳のせいか、白髪まじりではあるが。瞳は彼と同じ、青色だ。ラティスの瞳の色は父親譲りのようだ。

「何でしょうか」
 ラティスは目を合わせないようにしながらそう言った。
「何でしょうかではない、ラティス。いつまでも私の耳に入ってこないと思うなよ」
 腕を組みながらラティスをじっと見つめる。そんな父に対して、ラティスは目を合わせる気がないらしく、窓の外を見ていた。
「私はお前に魔法を使うなと言ったはずだ。もう絶対に使ってはならん。これはお前のためなんだぞ」
「……、わかってます」
「わかってないからいっているんだ。……、最近はユリエルとも仲良くしているようだから安心していたのだが、いいか、絶対に魔法は使うな。その髪がいい証拠だと何度も教えただろう?」
「……、わかってます」
 同じように答えるラティス。その様子に父は大きくため息を着く。
「約束してくれ。もう2度と使わないと」
「……、わかってます」
 その答えに、ラティスの父は眉を寄せる。
「お前……」
 近づいて彼の腕を掴もうとしたところで、ラティスが思い切り手を払いのけ、そのまま扉を出て行く。
 追いかけはしなかったものの、何か違和感を感じて呟く。
「ラティス……?」

 *** ***

 空は相変わらずの晴天。
 明るい空の下、カイはユリエルの前で、正座をしていた。
 びくびくとしながらぎゅっと目を瞑る。
 目を合わせてはいけないと、カイは悟っていた。
 この目の前の、女神のように神々しい笑顔をしたユリエルと目を合わせたら終わりだと。
「ねぇ、カイ、ラティスが1週間部屋に篭って一体何をしていたか教えてくださる?」
 眩しいほどの微笑みに、側にいたレーニアまでうっかりうっとりしてしまう。
「し、知りません」
 カイがそういうと、一層ユリエルの微笑みの輝きが増した気がする。
「あら、カイ。あなた、ラティスの近衛騎士じゃなかったかしら?主人が何をやっていたかわからないなんて、もしかして、お仕事さぼっていたのかしら?」
 眩しい微笑みとは間逆に、言葉は鋭い槍のように突き刺さる。
 明らかにダメージを受けているカイに、レーニアは少し同情した。
「そ、それは、その……」
 口ごもるカイに、ユリエルは微笑みを崩さない。
 それに耐え切れなかったのは、もちろんカイだった。
「そ、その、口止めされているので、私からは……」
「口止め?何か言えないようなことでもしているの?」
 まくし立てられ、カイはまた口ごもる。
 すると、突然上から何かが落ちてきた。

 ドス。
 重たい音は、カイのすぐ側の地面で鳴った。
 そこに落ちたのは、あり得ない分厚さの本。
 直撃していたら死んでいたかもしれない。
 上を見上げると、3階の窓から下を見ているラティスの姿が見えた。ラティスはユリエルと目が合うとさっと見えない場所へ行ってしまう。
 カイは青ざめつつ本を拾うとさっとその場を離れる。
「あ、カイ!」
 レーニアが止めようとしたが、カイの姿はすぐに小さくなり見えなくなってしまった。
「……、一体何をしてるの?」
 ユリエルの呟きは、むなしく風に流された。


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